『風の大陸から』第6話

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僕の名は旅峰と書いて「りょお」。

海外の人にとっては発音が難しいらしく、デョーであったりディオであったり時にはヒョと呼ばれることもある。だから「りょお」と正しく発音してくれる人に出会うとつい嬉しくて甘えてしまう。クウォールという町のパニーラさんがそんな人だった。
12月23日、初めて会ったとき、彼女は僕の肩をバンバン叩いて「旅峰さん!もう安心じゃけ!」と豪快な広島弁で語った。91年から92年に広島へ交換留学生として来ていた彼女は、ベラベラの広島弁を話す。当時は『ゴキブリちゃんと私』という題名で留学生スピーチコンテストの優秀賞を獲得したり、リレハンメルオリンピックの時には日本のジャンプチームの国際通訳も務めたという聡明にして快活な女性だ。
日本の大晦日と正月とお盆を合わせたような一大イベントのクリスマスが終わり、年の瀬も迫った12月30日、親しい友人を招いて大人だけのカクテルパーティーが始まった。今夜は大量の酒を用意したと夫のビアンヌさん。ビール20本!すかさずパニーラさんが日本語で叫ぶ。「酔っ払い!」ワイン12本!「ヘベレケ!」コニャック2l(リットル)、ウィスキー3l、コスモポリタン4l!「グデンッグデン!!」
当時、まだ女子高校生であった彼女にこんな日本語を教えたのは誰だろうと思いながら、僕も一緒になって杯を上げた。そのうち話題は僕の旅になった。「アラスカでは-50℃でテント泊。吐いた息も指もすぐに凍って」僕が少し得意げに話すと「いやぁホンマ信じられん!」広島なまりの日本語が続く。「50℃の砂漠では脳みそが沸騰して」「やめてぇー!」大げさな身振り。8人の明るい笑いが部屋に満ちた。


彼女が横にきて言う。「旅峰さん。私も日本にいるときたくさんいい思いした。だから思い切り楽しんで!そうそう、日本のお盆パーティーも楽しかった」何をしたのだろう。「クソじじいとウィスキー飲んだよ!」20年前の日本での日々は本当に楽しかったようだ。そのときビアンヌさんが曲を変えた。途端に女性たち3人が立ち上がり踊り出した。


男性はお酒を飲みながらボソボソ2011年を振り返ったりしていたのだが、女性陣は赤いロウソクを持って踊り狂う。やはりというか、この国でも、女性が元気だと世界は平和だなぁと思っていると、「旅峰さーん!踊るじゃろ、おいでー!」という明朗な呼び声。デョーでもディオでもなく、こんなにはっきりと名前を呼ばれたら断る訳にはいかないのだ。

 

「風の大陸から」は山口新聞の紙面で連載中です。

山口新聞

http://www.minato-yamaguchi.co.jp/yama/

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