~My hometown~

Description


僕は下関の長府という地で生まれた。
家の眼前にそびえる串崎城址(長府毛利藩の居城)の裏山を越えると、対岸に門司を望み関門橋を見通せる場所であった。お船出の海岸と呼ばれる小さな浜辺で近所の悪童たちと泳ぎ取っ組み合い、喧嘩もたくさんやってきた。
この海辺でできた傷は故郷の記憶として、今でも身体のあちこちに残っている。

幼少時から関門の瀬戸に慣れ親しんできたが、小学3年生のとき山の中に引っ越し海からは遠ざかった。それから中学、高校を経て大学へ行ったが海はいつでも身近にあるような気がして敢えて訪れることはなかった。

2002年20歳の夏、僕は自転車で本州を縦断した。
青森市から下関市までの2000kmくらいだったろう、たった15日間の旅だった。
最終日の午後2時、遠くに霞んで関門橋が視界に入った。瞬間、予期せぬ雄叫びが出た。いつも見慣れているはずの関門海峡が、そのときとても新鮮に美しく感じられた。これほど早い潮流は珍しく対岸の九州が間近に見られるのもおもしろい。僕の故郷はとてもいい場所じゃないかと思った。単なる海岸線が、あの灰緑色の関門橋が、足下のきれいとはいえないアスファルトが、この瀬戸内の海峡が僕にはとてもいい場所に思えたのだ。それは遠い青森から一回転ずつ自転車をこいで帰ってきたからかもしれない。汗水愚痴垂らし、無様な顔で峠を越え、人の心に触れ、日本のすばらしい場所をたくさん知って帰ってきたからかもしれない。

その関門海峡の近くにいま両親と住んでいる。長らく実家としてがんばってくれていた山の中の家は、床が抜け草が生え雨漏りが激しくもう住むに耐えないから。お船出の海岸からは少し離れるが関門橋には近くなった。小屋の窓からは船の頭が見え、夜は汽笛が響く。

故郷は離れて分かるよさがある。山口も日本もアジアも、離れなければ分からないよさがある。自転車で走り、五感を使って旅をし、世界の人々と交わり、世界のすばらしい風景に出逢う度、僕の故郷はこれからも味を増すだろう。

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