Takk ☆ Thanks

Description

22歳、旅に出て9日目(たぶん)に全資金盗難(南米縦断)。

25歳、旅に出て9日目(くらい)に8本指凍傷(北南米縦断)。

29歳、旅に出て9日目、交通事故遭遇(ヨーロッパ・アフリカ縦断)。

 

事故に遭い、再びマリアンナ・ビダールの家に戻ってきた。二人は学校にいた息子からの連絡で僕の事故を知った。青い顔をして病院に飛んできたが、ベッドに寝かされたヘナチョコ日本人のふやけた笑顔を見て、二人は少し安心したようだった。

 

こんなことになるなんて誰が予想できただろう。別れのとき、「本当はもっといてほしかった」「僕ももっといたかった。また逢いましょうね」と言葉を交わしていたのだ。「すぐに再会できましたね！」笑うしかなかった。

療養が始まった。数日すると、診察の時には痛みを感じなかった部分に痛みを感じるようになった。これまでできていた姿勢ができなくなった。けれど、毎日があたたかかった。

みなが僕の旅の心配をしてくれて、ルートやこの先の知り合いの住所、連絡先をくれたりもした。

ある朝、僕の元に人を介して小包が届けられた。それはスノーシューズが壊れてダメになった僕のために、僕のことを知った(または知っている)誰かが新しいそれを贈ってくれたのだ。－40℃まで耐えられるという暖かく新しい靴。いったい誰だろう、嬉しかった。

またある夜、講演をした学校のクリスマスパーティの席で、旅の話を聞いてくれた最上級生ら7人が、僕のために自転車の修理費用を自分たちで出しあってプレゼントするつもりでいることを教えてくれた。後日、僕は7人の心を受け取った。

 

かかわりのあるすべての人が、まるで親のように家族のように知己のように心配し助けてくれている。クリスマス、そして大晦日は北の岬、ノールカップに近い場所で迎えるだろうと考えていたが、今では2月に近くなるかもしれないと思い直している。だが、それでいい。このスカンディナヴィア半島に、僕は時間をかけることにした。かつてアラスカ・カナダで凍傷と寒さと膝を壊し思いのほか長く滞在したように、これがいまの僕の旅という日々だから。

 22歳、旅に出て盗難発覚後、すばらしい家族に出逢う。

25歳、旅に出て凍傷後、うれしい家族と懇意になる。

29歳、旅に出て事故後、よろこばしい家族・友人たちと親しくなる。

 

塞翁が馬、人生はめくるめくメリーゴーランド。何が幸福で不幸か僕には分からない。ノルウェーのみなさん、本当にありがとう。とりわけ、マリアンナとビダール、5人の子どもたちには感謝してもしきれない。この、あたたかさをありがとう。

旅は続く。

 

[後注]新しいスノーシューズは、その後、僕が自転車の修理を依頼したスポーツ店の人たちからの贈り物であることが分かった。心から感謝します。