『風の大陸から』第7話

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Description

イェリヴァーレの街で知り合いになった新聞記者を訪ねると、プレゼントだといって紙切れをもらった。書かれてある住所を頼りに雪を被った三角屋根の家を訪れた。カランカランと、来客を告げる真鍮の鐘を鳴らすと静かに戸が開いて、穏やかな目をした赤シャツ白ひげの老人が立っていた。

「待っていたよ」

そこは、サンタクロースの家だった。

 

グリーンランド国際サンタクロース協会なるものが世界にはあって、120人の公認サンタが世界中に散らばっている。75歳になるという目の前の人物、サンタのシバートは中でも指折りの有名人のようで、サンタ祭りで名高いこの街のポスターの顔にもなっている。

本物のサンタさんだ!嬉しくなった。今夜、僕はサンタハウスに泊まるのである。

 

荷を運び入れ、ようやく落ち着いて家の中を見渡してみると、いたるところにサンタクロースのミニチュアがあった。天井から床、玄関の外からトイレの窓まで。

妻がね、集めてるんだ。全部で1250ある。そういって妻のヴェガを紹介してくれた。彼女もまたサンタの衣装を着て子どもたちに夢を与えている。

 

僕は紅茶を、サンタさんはコーヒーを手に、照れつつも2人の目が合った。瞬間を逃さず質問を開始。

まず、おもちゃはどこで買うのですか?サンタさんいわく「街のおもちゃ屋で買うよ」煙突がない家にはどうやって入るの?「玄関から」移動はトナカイかな?「ときどき自動車を使うね」だって。

僕はカップを置き、荷物の中から一枚の世界地図を引っ張り出してきた。それは、旅で出会った人々にメッセージを描いてもらっているものだ。彼はペンを手にユーモラスな空と山と太陽を印(しる)した。もしその絵にタイトルをつけるとすれば『光』がぴったりだと思った。

 

翌朝、僕は祖母の作った貝殻でできたお守りと赤い折り鶴、それに2人の似顔絵を描いたカードを渡した。サンタ夫妻はとても喜んで「ちょっと遅くなってしまったが」と言い、彼お手製の鈴でできたトナカイとロウソク立て、それに手編みの飾りやサンタワッペンなど、季節遅れのクリスマスプレゼントをくれるのだった。

僕は自転車に乗って人々の夢を集めている。3冊目に入った夢ノートを開くとそこにサンタの夢が書かれてある。

「世界中の子どもたちが、健康で平和に、幸せになりますように」

サンタクロースは子どもたちを見守る光だ。そしてその夢は、僕たちの、もっと大げさにいえば、月に行くことよりも大きな「人類の夢」といえないだろうか。

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