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ヒロ社長は、学歴・勝ち組社会が日本をダメにしていると主張した。
「長年ビジネスの世界で生きてきたから分かるけどね、じわじわとダメになっていくんじゃないんだ、経済ってのは。ある日突然バーンと一気に崖から落ちる。カネしか見られない人間を作ってたら未来なんてないんだ。日本人は圧倒的にその危機感が足りてない」
ブルガリア、ソフィアの安宿に着いたら、御年73の日本人男性が話しかけてこられた。話好きなのか弁舌が止まらない。
人は助け合って生きていかないといけない。でもその言葉が現代日本では空洞化している。おカネ持ちには付いてくが、カネがない人には見向きもしない。人じゃなくてみんなカネを見ているんだ。問題はだね……感謝と礼の心が……
有意義で共感できる話だが、差し当たっての僕の問題は体を洗いたいということ。何度もそれらしい素振りを見せたのだが気づいてもらえず、強引に浴室に滑り込んだけれど、その後も話が、面白いのだが止まらない。
出身は神戸の名家で名門大卒。一時は年商30億をはじめとする6つの会社を経営し、限度額500万円のクレジットカードを5枚持つ上流階級の人だったが、諸事情により自殺を試みること2回。紆余曲折あり今はこの国で暮らしている。
翌朝、僕は先んじて断りを入れた。
「ヒロさん、すみません。今日は原稿書きの仕事をさせてください」
社長は、ああ、そりゃそっちを優先してくださいと言ったものの、早くも10分後には弁論が再開されたので、トイレに行くふりをして部屋を変えると、氏は目ざとく僕を見つけ「うん、こっちの部屋もいいでしょ」と隣に座った。
受け答えも無愛想に、僕は全身全霊で怖いほどの「話しかけないでオーラ」を発した。しかしそんなものなど屁ともせず、ヒロ社長はひたすら話しかけてくるのである。
(すげぇ、俺のオーラなんて屁でもねえ!)
それがなぜだか堪らなく可笑しくて、僕は仕事を完全に諦め社長の貴重なお話をメモするのだった。
氏の話は実際非常に面白かった。過激な意見や厳しい言葉もあったが、ヒロさんは話以上に「人」が好きなのだ。
もうすぐ74歳のヒロ社長。実は旅と健康を結びつけた新しいビジネスを考案中である。最初のビジネスがうまくいったらそれを元手に新事業を展開するつもりらしい。
「日本人は能力はあるんだ。もっと世界に出て交流し、開けた人類を作る時代に来ていると思うよ」
日本はね……助け合いの精神が……(西野相槌)。
すげぇなぁ。老いなんて屁でもねぇや!